2026年10月01日

最近、「嗅覚障害と認知症の関係」が注目されています。特にアルツハイマー型認知症では、物忘れなどの症状がはっきりするよりも前から、嗅覚の低下がみられることが分かってきました。研究によっては、認知機能の低下が明らかになる10年以上前から嗅覚が低下する場合もあると報告されています。
なぜ嗅覚が認知症と関係するのでしょうか。脳の中で、においの情報を処理するところと、記憶をつかさどっているところがすぐ近くにあります。アルツハイマー病では、異常なタンパク質であるタウやアミロイドβがこうした領域に蓄積し、神経細胞に障害を与えることが知られています。そのため、嗅覚の低下が認知症の早期の変化として現れるのではないかと考えられています。
では、嗅覚が低下すると認知症になりやすいのでしょうか。
嗅覚が低下している=認知症、ではありません
嗅覚障害には、慢性副鼻腔炎やアレルギー性鼻炎、ウイルス感染後、頭部外傷、加齢など、さまざまな原因があります。また、パーキンソン病などの神経変性疾患でも嗅覚が低下することがあります。
そのため、「嗅覚が低下している=認知症」というわけではありません。
一方で、鼻や副鼻腔に明らかな病気がないにもかかわらず嗅覚が低下している場合には、認知症やパーキンソン病などの神経変性疾患の初期サインである可能性も考える必要があります。特に、嗅覚低下に加えて物忘れが増えた、以前と比べて日常生活の様子が変わった、といった症状がある場合には、一度専門医に相談することをおすすめします。
嗅覚を治療すれば認知症を予防できる?
では、慢性副鼻腔炎やアレルギー性鼻炎など、原因が比較的はっきりしている嗅覚障害を治療することで、将来の認知症を予防できるのでしょうか。
残念ながら、現時点では、嗅覚障害を治療することで認知症の発症を予防できるとは証明されていません。
ただし、鼻の病気を治療することで嗅覚が改善する可能性は十分にあります。嗅覚が改善すれば、食事を楽しめるようになったり、生活の質が向上したりするほか、集中力や社会的な活動にも良い影響を与える可能性があります。こうしたことが、将来的な認知機能にも何らかの影響を与えるのではないかと考えられ、現在も研究が進められています。
原因の分からない嗅覚障害は?
原因がはっきりしない嗅覚障害に対しては、「嗅覚トレーニング」という治療があります。これは、バラ、レモン、ユーカリなど、いくつかのにおいを意識して嗅ぐことで嗅覚の回復を促す方法です。
ただし、嗅覚トレーニングによって認知症を予防できるという十分な証拠は、現時点ではありません。嗅覚そのものの改善効果についても、原因によって異なります。一方で、嗅覚トレーニングによって脳の前頭葉などの活動に変化がみられたという研究もあり、脳に何らかの良い影響を与える可能性については、今後の研究が期待されています。
現在分かっていることをまとめると、「原因のはっきりしない嗅覚低下は、認知症やパーキンソン病などの神経変性疾患の早期サインである可能性がある」という点が最も重要です。一方で、嗅覚を改善すれば認知症を予防できるかどうかについては、まだ研究段階です。
「最近、においが分かりにくくなった」と感じた場合には、年齢のせいと考えてそのままにせず、まずは慢性副鼻腔炎やアレルギー性鼻炎など、治療可能な原因がないかを調べてみることが大切です。嗅覚の低下をきっかけに、鼻の病気だけでなく全身の健康状態を見直すことにもつながるかもしれません。